ILC 元年へ~鈴木厚人機構長インタビュー~

ILC通信 73号pdf

鈴木厚人KEK 機構長

 昨年末、2014 度政府予算案が閣議決定され、国際リニアコライダー(ILC)計画に関する調査検討費5 千万円が計上された。ILCと明示された国家予算が措置されたのは初のことになる。ILC 計画の本格化が期待される2014 年。今年のILC はどうなるのか、鈴木厚人高エネルギー加速器研究機構(KEK) 機構長に聞いた。

 昨年10 月、鈴木氏は駒宮幸男高エネルギー研究者会議議長と、山下了ILC 戦略会議議長とともに、文科大臣宛にILC 日本誘致の要望書を提出。ILC の建設が現実的であることを示す技術設計報告書、日本国内に立地することが可能であることを示す地質調査報告書、そして国際研究所の体制案とともに要望書を提出し、受理された。これに伴い、KEKは「ILC推進準備室」を発足した。

 「KEK はこれまで、ILC の研究開発を推進してきました。ILCの調査費も計上され、これからは技術のみならず、研究所の在り方や運営方法等の検討も本格化させなければなりません。それには『プロジェクト』としてILC を推進する機動部隊が必要となります。その役割を担うのがILC 推進準備室です」と、同室長を兼任する鈴木氏は言う。「まずはKEK 内の組織として始めますが、近い将来、国内のILC 関連研究者が全員参加する組織へと変えて行く必要があります。ILC は国際プロジェクトですから、最終的にはそれを国際ラボに進化させていく予定です」(鈴木氏)。

 先端加速器科学技術推進協議会(AAA) を中心に行われて来た産学官連携の活動も、深化させることになる。文部科学省は年明けにも約10 人で構成する有識者会議を設置し、日本学術会議から指摘された詳細な経費算定や研究者らの必要数や確保の見通し、国際的な経費分担などの課題について検討を始める。

 「2014 年は次フェーズへの出発点、つまり『ILC 元年』と言ってよいと思っています」と鈴木氏。今後2、3 年かけて、加速器の詳細設計と、国際研究所を日本に建設し、運営して行くために必要となる諸課題の検討を行って行く予定だ。

 世界各国からの、日本における動きに注目が集まっている。欧州では、昨年更新された素粒子物理学の長期戦略の中で、日本がILC計画を主導することと、日本がILC に関する何らかの声明を出すことへの期待が明示されている。また、米国やアジアの科学者からも同様のメッセージが出されている。

 「科学者としても、ILC が国際プロジェクトとして認められるように、経済協力開発機構(OECD)などへの働きかけを行う等、できるだけ早く国際交渉に入れるような基盤作りに注力していきたいと考えています」と鈴木氏。政府でも文部科学省を中心に、国際協力関係をいかに構築していくかについて検討が始まっている。2014 年のILC 計画の進捗に期待したい。

組織図



ILC NewsLine ダイジェスト

ILC とCLIC 研究者グループが隔週で発行しているニュースレタ<ー「LC NewsLine」に掲載された記事から、ILC 通信編集部セレクトのおすすめ記事を要約版でお届けします。元記事は、ウェブサイトでご覧頂けます。
英語:http://newsline.linearcollider.org/
日本語訳:http://ilchighlights.typepad.com/japan/

2013 年12 月19 日号 一年を振り返って 駒宮幸男 LCB 議長

 2012 年の欧州合同原子核研究機関(CERN)の大型ハドロンコライダー(LHC)におけるヒッグス粒子の発見は、リニアコライダー・プロジェクトの初期の科学的目的を明確にした。すなわち、ヒッグスファクトリーがリニアコライダー・プロジェクトの第一フェーズであると示したのだ。これは、以前は相互排他的な状況だったILC とCLIC プロジェクトを平和共存に変えるものだ。2 つのプロジェクトは、将来の科学や資源次第では、シリーズに進むかもしれないということだ。したがって、2013 年2 月、将来加速器国際委員会(ICFA)は、ILC とCLIC 計画を無理なく統合し、現在リン・エバンス氏が率いるLCC(リニアコライダーコラボレーション)という統一組織をつくった。国際リニアコライダー運営委員会(ILCSC)も、LCB(リニアコライダー国際推進委員会)に変わった。

 2013 年にはLC プロジェクトにおいて多くの進捗がみられた。2012年末、国際共同設計チーム(GDE)はILC 技術設計報告書(TDR)を完成させ、測定器グループは詳細基本設計(DBD)をまとめた。両文書はレビュープロセスを経て、6 月に公表された。私たちは6 月12日の「ILC の日」にTDR 発表を祝い、東京、スイスのジュネーブを経由して、米シカゴへと祝賀会を引き継いでいった。

 私は、前GDE ディレクター、バリー・バリッシュ氏と彼のチームに彼らのリーダーシップによるTDR の完成に対し、また、前リサーチ・ディレクター、山田作衛氏と物理測定器グループにDBD の完成に対して感謝したい。

 政界、産業界をも含んだ日本のLC コミュニティは、現在、日本政府の計画実現への積極的な動きを勝ちとるため懸命に働いている。同時に、世界の高エネルギー物理学研究者コミュニティが明確な展望を持ってこれを後押しすることが重要である。ILC は真に国際的なプロジェクトである。よって、我々全研究者がILC の科学とプロジェクトについて共通の理解と展望を備えていなければならないのだ。ただ、幸運を待っているだけでは、よい結果は得られないかもしれないということだ。


素粒子物理ワールドニュース

KEK と共同でILC の研究開発にあたっている世界の研究所から発信された、素粒子物理学関連の話題をピックアップします。

2013 年11 月21 日号  DESY より アイスキューブ、宇宙からの最初の高エネルギーニュートリノを検出 世界最大の粒子検出器、天文学の新たな部門を切り開く

 南極大陸の永床の内部で、太陽系の外から飛んできたとてつもなく高いエネルギーを持つ素粒子ニュートリノが検出された。

2012 年1 月3 日に、南極のアイスキューブニュートリノ観測所で観測した最高エネルギーのニュートリノイベント。 © アイスキューブ共同研究グループ

 2010 年5 月~ 2012年5月の間に収集されたデータを調べた結果、30 兆電子ボルト(TeV) 以上のエネルギーを持つニュートリノとみられる粒子 を28 個とらえていたことがわかった。
 この中には、1000TeV を超える史上最高エネルギーのニュートリノ2個も含まれている。 英文記事:http://www.desy.de/information__services/press/ pressreleases/@@news-view?id=6741




2013 年10 月30 日号  Cサンフォード地下研究施設より サウスダコタのLUX 実験の最初の結果 サンフォード地下研究施設で稼働する世界最高感度のダークマター 検出器

 米サウスダコタ州ブラックヒルズの地下1 マイルで運転中の、新たな実験「大型地下キセノン実験:LUX」は、3 週間以上の最初の運転を行い、世界最高感度でダークマターを検出できることを示した。サンフォード研究所は国有施設で、運転にあたっては米エネルギー省の支援を受けている。全米科学財団と米エネルギー省の支援のもと、LUX 実験グループには、米、英、ポルトガルの17 の大学・研究機関が参加している。
英文記事:http://www.sanfordlab.org/about/deep-science-frontierphysics


加速器図鑑
ビーム

 ビームという言葉を聞くと SF 映画に出てくるビーム砲を連想する人も多いと思います。レーザーポインタから出るレーザー光線もビームです。素粒子やイオンなどがまとまって飛んでいる状態をさす言葉がビームといえるでしょう。

 加速器で扱うビームはその目的に応じていろいろな種類があります。ここでは ILC のビームの外見的特徴を解説してみたいと思います。ILCは電子ビームと陽電子ビームから成りますが、この2つ電荷が逆な以外は同じ性質を持つので、ここからは電子ビームを例に説明していきます。

 電子ビームの一塊(専門用語でバンチと呼びます)は 200 億個の電子が集まってできています。バンチは非常に平べったくて進行方向にとても長い形状をしています。例えればトイレットペーパーのロールをほどいてのばしたものが飛んでいるようなものといってよいでしょう *1。大きさはトイレットペーパーよりはるかに小さく、衝突点では長さ300 ミクロン、幅 600 ナノメートル、厚さ 6 ナノメートルです*2。

 このような形状のバンチが 1300 個連なって飛びます。バンチとバンチの間隔は 170 メートルです。連なった様子が列車みたいなので1300 個の連なり全体をトレインと呼びます。一編成が 1300 両で構成された列車といえます。170 メートル間隔は長いように感じますがビームはほぼ光の速さで飛んでいるので時間にすると 550 ナノ秒間隔です*3。1300 バンチからなるトレインの全長は 200 キロメートルを超えます。これは ILC 施設全体よりも長いので「あれ?」と思った方もいると思います。トンネルに入る列車の先頭付近の車両がトンネルに入っても後部はまだ外にいるという様子を想像して下さい。これと同じで ILCでもトレイン全体が一度に線形加速器に収まっている必要はありません。

 いま線形加速器の横に立ってトレインが通り過ぎるのを見ているとすると、この長さ 200 キロメートル超のほぼ光速で走るトレインは貴方の前を僅か0.7 ミリ秒で*4 通り過ぎます。ILC では昼夜 24 時間連続で数ヶ月間にわたって実験が続けられます。実験中はこのトレインが 0.2秒毎ごとに送り出されてに次々と飛んで衝突点に届きます。これが ILCのビームです。

 ところで実際のビームは目に見えるのでしょうか。残念ながらビームは、真空中を光ることもなく音も出さずに飛びますので見る事も聞く事も出来ません。科学者はこのビームを特殊な装置*5 で観測しながらコントロールしています。映画の中のようにビームが光りながら飛ぶ様子を想像していた人は少しがっかりかも知れませんね。

*1) 米 SLAC 国立加速器研究所 のグレッグ・ロウ氏の例えによる。
*2) 1 ミクロンは 1/1000 ミリメートル、1 ナノメーターは 1/1000000 ミリ メートル。
*3) 1 ナノ秒は 1/1000000000 秒。
*4) 1 ミリ秒は 1/1000 秒
*5) 例えばその中の一つが ILC 通信 62 号 (2012 年 2 月) の加速器図鑑で取り 上げたビームの位置を測る装置、ビーム位置モニター。


トピックス

東京でLCWS13 開催

LCWS13 の参加者ら

 11 月11~15 日、東京大学本郷キャンパス(東京都文京区)でリニアコライダー国際ワークショップ(LCWS13)が開催され、世界から約350 名の加速器・測定器の研究者が参加しました。
 今回の会議は、CERN の大型ハドロンコライダー(LHC) からの歴史的な発見を受け、今後の研究について議論を深めるとともに、日本における建設に期待が高まるILC や、将来計画のCLIC の加速器や測定器について意見交換を行いました。

特別講演を行う河村議員

 初日の最後のセッションでは、リニアコライダー国際研究所建設推進議員連盟会長の河村建夫衆議院議員が特別講演を行いました。河村氏は、「これからは、これまでの研究者の連携を超え、政府がコミットした形での国際的パートナーシップを枠組み作りから進めなければならないと考えています。新たな多国間パートナーシップをこのILC 計画をモデルに立ち上げたい」と述べました。




一般講演会の杉山氏(左)村山氏(右)

 また、11 月14 日の夕方からは、一般公開講演会「ビッグバンから138 億年 宇宙はいま~宇宙観測から加速器実験まで~」が行われました。 村山 斉東京大学 カブリ数物連携宇宙研究機構機構長 / カリフォルニア大学バークレイ校マックアダムズ冠教授と杉山 直 名古屋大学大学院理学研究科教授が講演し約300 名が聴講しました。




お知らせ

KEK キャラバン~お届けします、科学に夢中~

 KEK では、学校、各種団体等へ研究者や職員を講師として派遣するプロジェクト「KEK キャラバン」を実施しております。本キャラバンは、いわゆる出前授業で、加速器を用いた素粒子や物質・生命などの研究や、その研究を支える仕事の紹介を行っています。KEKのホームページで連載中の科学マンガ「カソクキッズ」(http://kids.kek.jp/comic/)を使用した授業や、ILC についての講演・サイエンスカフェ等も実施しております。



 ただいま、平2014 年4 月以降実施分のお申し込みを受付中です。まずは下記までお問合せ下さい。

<お問合せ> KEK 広報室普及グループKEK キャラバン係
TEL:029-879-6247
FAX:029-879-6246
WEB:http://caravan.kek.jp
E-mail:caravan@ml.post.kek.jp


編集部より

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