米国、ILCの意義と価値を再確認

ILC通信 75号pdf

P5 レポートの表紙

 内閣府ホームページには「科学技術は国力の根幹であり、未来を切り拓く鍵です」と記されている。日本と同様に、世界各国でも科学技術政策を国家の重要事項と位置付けている。科学技術政策によって推進される研究開発活動は、多様な科学成果を産み出す。そしてその成果は、新しい材料や製品の開発、新産業の創出といったイノベーションにつながり、国家の経済力や国際競争力、ひいてはその国の国際的なプレゼンスに大きく影響を与えるからだ。

 今年5 月、米国の素粒子物理研究の方向性を定める、通称「P ファ イブ(P5)レポートが承認された。P5 とは「Particle Physics Project Prioritization Panel(素粒子物理プロジェクト優先順位決 定委員会)」の頭文字で、その名の通り、米国が推進すべき素粒子物理 学研究プロジェクトを選定し、その優先順位付けを行う委員会。米国 のこの報告書は、国家の素粒子物理研究の方向性を定める重要な意味 を持つ。そしてその内容は、ILC にとっても非常に大きな前進となる ものであった。

 今回のレポートの前にP5レポートが公表されたのは2008年だった。 2008 年のP5 レポートでは、前年に公表された基準設計報告書記載の 建設コストが想定より大きく、建設遅延への懸念が示された。一方で、 大型ハドロンコライダー(LHC)実験から、次期加速器として500 ギ ガ電子ボルト(GeV)より低いエネルギーの加速器がふさわしいとい う結果が出た場合は、ILC が最も成熟した設計で、10 年以内に建設開 始が可能なプロジェクトであるとも評価していた。しかし、このレポー トが公開された半年後、米国のILC の予算は一気に4 分の1 までカッ トされてしまう。当時の米国のイラク戦争への大規模な予算拠出が主 な原因だ。この時には、ほぼ全ての新規の科学技術予算関係予算が大 幅に削減され、事実、国際公約されていた国際熱核融合実験炉(ITER) への予算拠出までもが停止されたのである。

 今年2 月には、世界の加速器研究所の長で構成される組織「将来加速器国際委員会(ICFA)」が、「国際研究コミュニティによる日本におけるILC 実現にむけた取組みが素晴 2008 年以降、予算上は一見完全にストップしたかに思えた米国の ILC 関連研究開発であるが、ILC の科学的意義は引き続き高く評価さ れていた。そのため、政権交代後には超伝導加速器の予算は大幅に増 加され、さらにILC 予算の復活もあり、2013 年6 月に技術設計報告 書(TDR)が完成するまで、米国の技術開発は大きな進展を遂げてき た。しかしながら、TDR 完成後は「当初の目的を達成した」と言う理 由で米国のILC の活動は、事実上ほぼ停止していた。

 前回の P5 レポート後の5 年で、素粒子物理研究の世界ではヒッグス粒子の発見をはじめ、非常に大きな前進があった。そして、これら の成果をより詳細に研究し、さらに新しい発見を導くのにふさわしい 加速器がILC であることが確認されたのである。

 今回のP5 レポートでは、 ILC の科学的意義を「極めて大きい」とし、 ヒッグス粒子、ダークマター、そして未知の発見に向けて、アップグレー ドされたLHC と相補的な役割を担う加速器となると評価した。また、 「ILC の科学的重要性と最近の日本におけるILC ホストに向けた動き を鑑み、米国は、米国の重要な専門知識を活かすことが可能な分野に おけるILC 加速器と測定器の設計に、ある程度の適切なレベルで予算 措置を行うことが望ましい。ILC 計画に進展があった場合には、より 高いレベルでの協力を検討するものとする」と記述している。

 ここに見られるのは、米国の「高エネルギー物理」に対する立ち位 置の変化だ。米国は、高エネルギー物理の全ての面で世界を牽引する リーダーとなるよりも、グローバルな研究コミュニティでの役割分担 をはっきりさせ、その中で米国の得意分野に注力する「研究のグロー バル化」へと方針転換したことを明確に示したのである。米国の研究 者コミュニティは、日本におけるILC の実現に向けて、米国内での加 速器と測定器のR&D が続行するとしている。さらに、日本政府の意 志が確認され次第、米国のILC への取組みについて再検討し、日本で の建設が決定した暁には、ILC に本格的に参加したいと意気込んでい る。

 米国のみならず、グローバルな研究者コミュニティにも動きがあっ た。7 月6 日、高エネルギー加速器の建設や利用における国際協力、 超高エネルギー加速器施設の建設に必要な技術についての検討などを 行う組織である、国際将来加速器委員会(ICFA)は「国際リニアコ ライダー(ILC)計画への支持、欧州・アジア・米国の将来戦略の承認、 及び円形加速器の将来構想に関する国際的な検討活動の推進」に関す る声明を公表した。ここで ICFA はILC 計画への支持を改めて表明 し、かつその技術が成熟した段階に到達している事を確認したのであ る。この声明では同時に「LHC のエネルギーを大きく凌ぐ陽子- 陽子 衝突型加速器を究極的目標とする円形加速器構想の国際的な検討活動 の推進」も引き続き奨励している。次期に推進すべき「プロジェクト」 としてのILC と、将来に向けて検討(study)すべき構想を明確に区 別したことも、この声明のポイントである。

 この声明は、P5 レポート発表後以降初となるICFA の会合で公表 された。アジアや欧州でも、P5 レポートと同様の素粒子物理学の将来 戦略がすでに発表されているが、これら3 地域の戦略は共通した優先 的研究課題を挙げている。ILC もその一つだ。これらの優先課題は、 世界の素粒子物理研究コミュニティによる慎重な検討の行程を経てま とめられたもので、各国政府の科学政策立案における重要な指針とな るものだ。

 よりグローバルになる世界の素粒子物理学研究。その中で日本が果 たす役割は、より重要になってきている。



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トピックス

KEK の先端加速器試験施設、世界最小のビームサイズを実現

ATF2 ビームライン

 KEK の先端加速器試験施設(ATF) のATF2 は、ILC の最終収束系の試験 ビームラインだ。ここでは、電子をナ ノメートル※レベルまで絞り込む実験が 行われている。ATF2 では2 つの主要 目標を掲げており、第1 は極小ビーム サイズの実証、そして第2 は安定した ビームの実証だ。5 月に米シカゴで行 われた国際ワークショップで、この第1 目標における素晴らしい成果が報告さ れた。世界最小のビームサイズ「55 ナノメートル」が達成されたのである。

 ILC で衝突させるビームサイズは高さ6 ナノメートルだ。ATF と ILC ではエネルギーが異なるため、ATF で37 ナノメートルのビーム サイズが実現できれば、ILC では5 ナノメートル以下のビームを実現 できることになる。そのため、ATF では37 ナノメートルを目標値に 実験が続けられている。6 月末から7 月にかけて、より規模の大きな国 際会議が相次いで行われ、ここでは5 月の報告よりさらに小さな「44 ナノメートル」という数字が報告された。ILC の仕様まで、あと一歩 のところまで到達したのである。

 注目すべきは、サイズだけではなく、その再現性の高さだ。ナノメー トルという極小サイズのビームを、加速器の停止期間を挟んで、短期間 で再現することが可能になったのである。また、ビームの安定性も増し た。ほとんどの実験で、チューニング無しに30 分から60 分の間、安 定的な運用を行うことができたのだ。

 ATF は現在夏期の停止期間中だ。現在の課題を解決すべく、秋には 運転が再開される。

※ 1 ナノメートルは1 メートルの10 億分の1


ILC の夏の合宿、鳥取で開催


 7 月19 日~ 22 日、グリーンスコーレ関金(鳥取県倉吉市)にて第5 回「加速器・物理合同ILC 夏の合宿2014」が開催された。ILC の加速 器や物理に興味のある若手研究者・大学院生を中心に、全国各地の19 の大学・研究機関から102 名(うち大学院生45 名)が参加した。本合 宿は、鳥取県、KEK 大学等連携支援事業、および関係大学のサポート のもと、日本のILC 加速器と物理研究者グループが主催し実施された もの。合宿の共同世話人をつとめた広島大学の高橋徹氏は「ILC への 大きな期待と、若い世代の勢いを感じた」と述べた。同じく共同世話人 の栗木雅夫氏(広島大学)は「鳥取県の皆様には細やかなサポートをし ていただき、大変ありがたかったです。ILC でも地域社会との関係は 大切だと感じました」と合宿を振り返った。



お知らせ

KEK 一般公開

 2014 年の一般公開は9 月13 日(土)に開催します。  普段は公開されていない実験装置・施設の見学や、研究者による講演の ほか、小学生から高校生を対象とする体験コーナーもご用意しています。 リニアコライダー関係では、ILC 関連の講演、ATF・超伝導RF 試験施 設(STF)の施設公開、研究本館でのパネル展示を予定しています。今年 も、STF、ATF、研究本館の3 か所を回った方を対象に、缶バッジなど が当たるILCくじを実施予定です。みなさまのお越しをお待ちしております。  詳細については、KEK一般公開2014 特設ウェブサイト(http://openhouse.kek.jp/)をご覧ください。



「ILC かるた」プロジェクト開始。読み札募集します!

ILC 通信編集部では、遊びながら、ILC を楽しく知って頂くために 「ILC かるた」を、皆さまとともに作り上げていく企画を開始します。 下記の要領で、読み句を募集いたします。多くの皆さまのご応募をお待 ちしております。

1. 読み句:

語調は自由。
ILC の特徴や、ILC への期待などを詠った句を20 字程度で作成して下さい。お一人何句でも可。ダジャレも大歓迎です。

2. 応募方法:

 Fax:029-879-6246(ILC かるた制作チーム)

 E-Mail:pr@lcdev.kek.jp(件名に「ILC かるた」とご記入下さい。)

 Twitter:ハッシュタグ「#ILC かるた」を付けてツイート

 Facebook:ILC 通信Facebook
       (https://www.facebook.com/ilctsushin)に投稿

3. 応募期限:

電子メール、Twitter、Facebook は2014 年9 月30 日(火)23 時まで。
Fax は同日17 時まで。

4. 選考:

ILC かるた選考委員会による厳正なる審査で選考します。選考結果 は2015 年1 月頃
発表予定です。入選者には、賞状と副賞を贈呈いた します。

5. その他:

 選考後採用された読み札の著作権はILC 通信編集部に帰属します。



編集部より

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