ILC通信 Vol.41 pdf

「イノベーションの創出」と基礎科学
~有馬雅人氏インタビュー~

先端加速器科学技術推進協議会事務局長・有馬雅人氏先端加速器科学技術推進協議会事務局長
有馬雅人氏

 現在、世界各国の科学技術政策を語るうえで、なくてはならない言葉、もしくはスローガンとも言えるのが「イノベーションの創出」だ。そして、イノベーションの源泉として、強化していくことが日本の国家政策としても挙げられているのが基礎科学分野の研究。ときに既存の知識や考え方を超えた発明や発見のもととなり、歴史的にも大きな役割を担ってきた。国際リニアコライダー(ILC)で推進して行く加速器科学は、この基礎科学研究に含まれる。イノベーション創出のもうひとつのキーワードが「産学連携」。大学などの教育機関・研究機関と民間企業が連携して、研究開発や事業を行なうことで、政府、自治体などの「官」が関わる場合は、「産官学連携」とも呼ばれている。昨年6月に発足した「先端加速器科学技術推進協議会」は、これら2つのキーワードを体現しているかのような活動を続けている。

 4月につくば市で行われたILC の国際会議で、同協議会事務局長、有馬雅人氏が行った講演、特に、締めくくりのメッセージ「Japan is advancing forward ILC with AAA( 日本は協議会とともにILC に向けて前進している:AAA は同協議会の英語略称)」は、欧米の加速器コミュニティに少なからず衝撃を与えた。これだけ多くの企業が参加し、さらに政官界とも連携をとりながらのILC の実現に向けた取り組みは、世界のどこにも例を見ないものだからだ。同協議会発足の目的は、先端加速器とその開発途上に生まれる様々なテクノロジーを将来の産業に役立てるため、政・官・産・学の架け橋となること。ILC 計画をモデルとした技術開発の方向性と知財の適切な取り扱いを検討するとともに、会員企業の幅広い専門性や知識を結集して、革新的科学技術の創出を目指している。また、あまり知られていない「加速器」について知ってもらうことも目標として掲げており、広報活動も中心的活動のひとつだ。「協議会のスタート時の会員数が76。現在は、合計113の企業、大学、研究所等が会員となっており、会員を増やすことも広報活動の一部と考えていますので、初期の目標は達成しています」と有馬氏は語る。

 協議会の具体的な活動は、「技術」、「知財」、「広報」、そして最近立ち上げられた「大型プロジェクト研究」の4部会で行われている。「なかでも技術部会は、モデルとしているILC の技術的課題の解決にむけた検討、さらに放射光・中性子などの応用分野もふくめ、今までに会合を11 回実施しています。更に個々の課題を掘り下げ、産学協同で解決策を検討するワーキンググループが機能し始めています」(有馬氏)。開発、応用の両面で、着実に技術的成果に繋がっていると言う。広報部会は、「先端加速器科学技術推進シンポジウム」を2 月の東京を皮切りに、仙台(6 月)、広島(7月)と、全国各地で開催し、加速器の認知度アップに貢献している。次回は、11月8日に福岡で開催される(詳しくは「お知らせ」をご覧下さい)。

 「アジアで、とりわけ日本でILC を実現する場合は、プロジェクト運営や組織作りなど技術的側面とはちがうところが問題になってきます。それらの課題に対応するために、大型プロジェクト研究部会を立ち上げました。協議会の活動が現実的なところまで踏み込んできている、と言ってよいでしょう」。有馬氏は、実際にILC 誘致に名乗りを挙げることまで考えた場合、一番大きな問題となるのは、建設地の決定になると言う。「事前のサイト調査をしっかりやっておかないと建設費用や工期に影響します。協議会の次の大きな課題として認識しています」。しかし、建設地の決定は、政官による取り組みが欠かせない。「そのためにも、議連※との連携を強化して行かなければならないと考えています。新政権も、『科学技術立国としての基盤整備と強化が重要』との認識は変わらない。期待しています」。

   ひとくちに「産官学連携」といっても、世の中には多様な認識が混在している。技術移転やベンチャー起業など、直接的な利益が注目されがちであるが、その連携活動が成果を挙げるために一番重要なのは、いかに「相乗効果」を生むことができるか、ということであろう。「産・学それぞれに得意不得意があるわけですから、産にまかせてもらうべき分野、学にしか取り仕切ることができない分野というものが存在します。そこの見極めというのが非常に大切だと思っています」。日本における加速器科学研究分野は、従来、研究者による「手作り」的技術開発が主流となっており、産学連携にはまだまだ不慣れな部分が多い。しかし、ILC は産学官連携なしには実現し得ない大型プロジェクト。まさに、「Japan is advancing forward ILC with AAA」なのだ。今後の協議会の活動に注目したい。

 ※ リニアコライダー(先端線形加速器)国際研究所建設推進議員連盟:2008 年7 月31 日、会長に与謝野馨氏、会長代理に鳩山由紀夫氏の超党派で設立。「日本発宇宙行き」のビジョンのもと、日本でのリニアコライダー国際研究所建設を目指して、議員がイニシアチブを取り、政党や省庁の枠組みを超えた働きかけを進めていく。2008 年8月15日発行【ILC 通信】第27 号最近の話題「リニアコライダー実現へ、超党派で議員連盟発足」も参照ください。

最近の話題田内利明氏、GDE 役員会のメンバーに

田内利明氏田内利明氏

高エネルギー加速器研究機構(KEK)の素粒子原子核研究所の田内利明氏が、2009 年9 月よりILC 国際共同設計チーム(GDE)の役員会のメンバーに加わった。  田内氏は、ILC の技術開発で不可欠なKEKの先端加速器試験施設(ATF)で活動し、ILC に必要なナノビームの実験的検証と若手研究者の育成作成に力を注いでいる。また、国際大型測定器(ILD)では、測定器と加速器インターフェースそして測定器構造体グループの世話人をつとめている。
 「GDE と測定器コミュニティとのコミュニケーションをより効率よくするのに貢献できればと考えています。最初は様々な状況を慎重につかむことに努め、徐々にGDE 役員会のメンバーとしての役割を果たしていきたいです」(田内氏談)

最近の話題測定器趣意書が認証される

 9 月29 日から6 日間の日程で米アルバカーキにて行われた、アメリカ線形加速器物理学計画グループとGDE の合同ワークショップで、ILC の測定器趣意書(LOI)※の認証結果が発表された。これらのLOI は、「国際大型測定器(ILD)」、「シリコン測定器(SiD)」、「4th」、という3つの国際研究開発チームから、3月末にILCリサーチディレクターの山田作衛氏に提出されたもの。日本の研究者はILD への参加が多く、他の二つにも少数だが参加がある。
 国際測定器諮問委員会(IDAG)によって、サブシステム毎の評価や統合された一つのシステムとしての期待されるパフォーマンス、加速器・測定器インターフェース等の観点から検討され、その結果、「ILD」と「SiD」を認証。詳細設計へと進めることが推奨された。
「4th」については、カロリメータの開発継続を推奨するにとどまった。この推奨に沿った認証は8月の国際リニアコライダー運営委員会(ILCSC)で了承されている。今後各研究グループは、2012 年の測定器の詳細ベースライン設計完成に向け、活動を続ける。

※ 測定器概念の詳細な解説、様々なサブ測定器の規模と配置、シミュレーション結果、ハードウェア技術、今後の開発計画の概略など、多岐にわたる膨大な資料がまとめられた文書。2009 年6 月15 日発行【ILC 通信】第37 号巻頭記事「研究者グループの『意思表示』~測定器趣意書提出~」も参照ください。

お知らせ
先端加速器科学技術推進シンポジウム2009 in 九州

 人類は、宇宙を観測し、宇宙へ行き、そして「加速器」により宇宙の初期状態を再現することで、宇宙創成・進化・終焉の謎に挑んできました。日本は、いずれの分野でも世界最先端の科学技術を駆使して貢献しています。本シンポジウムでは、「宇宙」をキーワードとする基礎科学研究における日本の取組みと将来の展望を紹介し、今後日本が果たすべき役割と意義について理解を深めます。

 先端加速器科学技術推進シンポジウムin 九州
「宇宙の謎に挑む 日本の貢献」
主催:先端加速器科学技術推進協議会、
   先端基礎科学次世代加速器研究会
後援:福岡県、佐賀県、宇宙航空研究開発機構
日時:2009 年11 月8 日(日)13:30 ~ 17:00(開場13:00)
場所:西鉄ホール
   福岡市中央区天神2-11-3 ソラリアステージ6F
参加費:無料/ 定員450 名(事前参加申込が必要です)
詳細は以下のURL をご覧下さい。
http://aaa-sentan.org/images/091108fukuoka.pdf
〈お申込・お問合わせ〉先端基礎科学次世代加速器研究会事務局
          福岡県商工部新産業・技術振興課内
TEL: 092-643-3434 FAX:092-643-3436
E-mail : shinsan@pref.fukuoka.lg.jp

お知らせ【ILC 通信】のホームページリニューアル

 【ILC 通信】をご愛読いただき、ありがとうございます。
この度、【ILC 通信】のホームページを全面リニューアルしました。
さらに見やすく情報を探しやすいホームページへと生まれ変わりました。今後とも、【ILC 通信】のホームページをよろしくお願いいたします。

2009年9月の滞在者

KEK には、毎月世界各地から学生や研究者が訪れ、共同研究を行っています。ILC の技術開発のために訪れた滞在者はこちら