ILC通信 Vol.42 pdf

ナノ秒でビームを蹴る

中央部に見える銀色の円筒状の装置が撤去された既存のキッカー。その前にある、赤い電磁石間をわたる銀色の細長いパイプ状のものが新たに開発した高速キッカー。中央部に見える銀色の円筒状の装置が撤去された既存のキッカー。
その前にある、赤い電磁石間をわたる銀色の細長いパイプ状のものが 新たに開発した高速キッカー。

 一流のサッカー選手の場合、蹴ったボールが最大速度である秒速30 メートルに達するまで、わずか0.01 秒という速さらしい。今回の話題は「高速キッカー」だ。とはいえ、これはテレビ中継でサッカー選手につけられるキャッチフレーズではなくて、加速器の話。そして、その速さは「ナノ秒」レベル。1秒の10 億分の1という超高速なのである。

 国際リニアコライダー(ILC)は超伝導技術でビームを加速する直線型衝突加速器。加速されるビームは「バンチトレイン」と呼ばれ、その名前のとおり数十億個の粒子のかたまり(バンチ)が列車のように連なっている。ILC では超伝導技術の特徴を活かして、大量の粒子を一気に加速するため、バンチの数は2600 個超。それらが330 ナノ秒間隔で連なり、その長さはなんと200 ~ 300 キロメートルにも及ぶ。加速されたバンチトレインは、衝突頻度を上げるために「ダンピングリング」へと送り込まれる。しかし、200 キロを超えるバンチトレインを丸ごと送り込むことのできるダンピングリングを作ろうとすると、単純に考えて、周長200 キロという巨大建造物が必要となる。これは技術的にもコスト的にも非現実的。そこでカギとなるのが高速キッカーの技術なのである。

現在想定されているILC のダンピングリングは、周長3 ~ 6 キロメートル。ここに、バンチとバンチの間隔を3 ~ 6 ナノ秒まで縮めたバンチトレインを「詰め込む」のだ。ダンピングリングを周回して、粒子が揃ったきれいなビームが、取り出しラインから取り出されるのだが、この時、元の330ナノ秒間隔のビームに戻される。キッカーが高速でなければいけない理由はここにある。330 ナノ秒間隔に戻すために、キッカーは、3 ~ 6 ナノ秒間隔で飛んでいるバンチと次のバンチの間のわずかな時間で起動し、特定の1個を狙って取り出す。そして、バンチを取り出したら、3 ~ 6 ナノ秒後にやってくる次のバンチに影響を与えないように、素早く立ち下がる。このように、330 ナノ秒間隔になるように、オンオフをくり返してバンチを取り出し続けるのである。目にも留まらぬ速さどころか、思考が追いついて行かない速さである。

内藤氏内藤氏

 キッカーは、どの加速器にも使われている装置で、主にビームを「蹴る」ことで角度を変える役割を担っている。「しかし、これまでの技術でILC の要求を満たす速さのキッカーを開発することは困難でした」、と語るのは、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の技師、内藤孝氏だ。これまで先端加速器試験装置(ATF)で使われてきたキッカーは「パルスマグネット」という磁石と、「サイラトロン」と呼ばれる大きな真空管スイッチのような電源とで構成されている。しかし、パルスマグネットは、ビーム を蹴るのに十分な磁気を帯びるまでに60 ナノ秒程度かかってしまい、サイラトロンは素早いスイッチ切り替えが苦手。この組み合わせでは、ILC の厳しい要求を満たすことができない。そこで開発されたのが、「ストリップライン」技術を用いた高速キッカーだ。パルスマグネットの代わりに「ストリップライン」を、電源には「半導体スイッチ」を採用している。ストリップライン自体は新しい技術ではなく、KEKB 加速器でも、バンチごとの振動を蹴り戻すフィードバック用に使われている。「これまでに蓄積されたデータから、ストリップラインをつかって3 ナノ秒程度の高速での応答が可能という結果はでており、2007 年に論文も発表しています。でも、データで証明するのと実証するのとでは話が違いました」と内藤氏は2 年間を振り返る。「バンチ振動のフィードバックでは小さな蹴り角しか必要とされません。しかし、ダンピングリングでの入射、取り出しでは大きな角度が必要となり、高電圧をかけなければなりません」。ATF で目指したのが1 メートルあたり5 ミリメートルの蹴り角だったのだが、実験で得られた数字は3 ミリメートル。あと2ミリ足りない。現在2 台設置されているストリップラインをもう2 台増設すれば問題は解決する。しかしここで問題になったのがATF の物理的スペース。すでに様々な機材などで混み合っており、ストリップラインを増設することができないのだ。「そこで、リングを周回しているビームの軌道をすこしずらすとともに、磁石を使って、蹴ったビームだけを曲げるような設計にしました。条件の決まった中であてはめていくのは非常にたいへんでしたね」。

 10 月下旬に行われた試験では、5.6 ナノ秒間隔のビームを17 個連続で取り出すことに成功した。「データ上では2.2 ナノ秒まで応答することがわかっており、ILC の要求である3 ナノ秒間隔への対応は十分可能です」(内藤氏)。次回の試験は来年3月に予定されている。それまでに、さらに安定した動作技術の開発が進められる予定だ。「デバイスが変わると、これまでの常識が全く変わってしまう。この高速キッカーは、その良い例だと思います」、と内藤氏は語る。

最近の話題南部陽一郎博士、京都で講演

講演中の南部氏講演中の南部氏

 10 月26 日、昨年ノーベル物理学賞を受賞した南部陽一郎シカゴ大名誉教授が、京都大学で講演した。南部氏は、完全に対称的な中国の天安門と、非対称の日本の二重橋を比較しつつ、自分が生まれ育った日本の環境がノーベル賞受賞理由の「対称性の破れ」という理論を生み出す背景にあったと振り返った。 市民ら約400人が参加。参加者の高校教諭から、若者への激励の言葉を求められると、南部氏は、論語の一部を引用し「好奇心を持って、ものを知るとともに楽しんでほしい」と答えた。

 

最近の話題先端加速器科学技術推進協議会、福岡でシンポジウム開催

福岡県知事・麻生氏福岡県知事・麻生氏
佐賀県知事・古川氏佐賀県知事・古川氏

  11 月8 日、福岡市の西鉄ホールにおいて、先端基礎科学次世代加速器研究会と先端加速器科学技術推進協議会が主催するシンポジウム「宇宙の謎に挑む日本の貢献」が開催された。今回は、先端加速器科学技術推進協議会が大学や地方自治体等と連携して実施するシンポジウムの3 回目。開会に先立ち、麻生渡福岡県、古川康佐賀県両知事が挨拶され、今回のシンポジウムについて「研究の魅力を少しでも多くの人と共有できれば大きな成果」と述べた。シンポジウムでは、村山斉氏(東京大学)の「最先端の力で挑む、宇宙の謎」と題した講演に続き、柏川伸成氏(国立天文台)の「すばる望遠鏡が解き明かす宇宙」、吉岡正和氏(KEK)の「ビッグバンを再現する究極の加速器」について講演。後半は、高柳雄一多摩六都科学館長をモデレーターとして迎え、3 人の講演者と東京大学の駒宮幸男氏によるパネルディスカッションが行われた。

質疑応答中の様子 質疑応答中の様子 パネルディスカッション中の講演者ら パネルディスカッション中の講演者ら

 シンポジウムには、会場を満席とする約400 名が参加。参加者の半数以上が高校生と大学生の青少年。パネルディスカッションでは、高校生から研究の意義や経済効果などについて鋭い質問が相次ぎ、会場を沸かせた。また、東京家政大学4年生の茶藤真澄さんが卒業制作として完成させた、ILC をイメージした架空の研究員「ライナ」のコスチュームで登場。シンポジウム終了後には撮影会も行われた。

 

 

お知らせ宙博(そらはく)2009

 世界天文年2009 日本委員会公式イベント「宙博2009」では、日本が誇る科学技術の最先端と、そこから誕生する環境エネルギー革命にスポットを当て、分かりやすくお伝えしていきます。

 宙博2009 ~人類は宙にふれて進化する~
日 程:2009 年12 月3 日(木)~ 6 日(日)
開催時間:10:00 ‐18:00(最終日17:00 閉場)     
※いずれも入場は閉場の30 分前まで
会 場:東京国際フォーラム
主 催:宙博実行委員会
入場料:大人1,500 円(前売り1,200 円)中学生、高校生1,000 円     (前売り800 円)保護者同伴で小学生以下無料
※主要プレイガイドにて好評発売中
〈お問い合わせ〉
宙博お問い合わせ事務局 E-mail:sorahaku09-info@f2ff.jp
詳しくはこちらをご覧下さい http://www.sorahaku.jp/

2009年10月の滞在者

KEK には、毎月世界各地から学生や研究者が訪れ、共同研究を行っています。ILC の技術開発のために訪れた滞在者はこちら