ILC通信 Vol.43 pdf

「進」~2009年のILCを振り返る

2009年のILCを振り返る

 早いもので今年も残すところあとわずか。100 年に一度と言われる未曾有の不景気、政権交替、薬物汚染、事業仕分け・・大きな時代のうねりの中、暗い話題ばかりが目立ったように思える2009 年。11日に発表された、一年を象徴する漢字を選ぶ「今年の漢字」は「新」。さて、国際リニアコライダー(ILC)にとってはどんな年だったのか、この一年を振り返ってみよう。

シンポジウム

 南部、小林、益川、3 名の日本人物理学者のノーベル賞受賞で暮れた2008 年。2009 年も引続き、ノーベル賞関連の講演会やシンポジウム等が相次いで行われた。また、2008 年から活動を開始した先端加速器科学技術推進協議会も、活発な広報活動を展開。「行く宇宙、観る宇宙、創る宇宙」をテーマに、3回シリーズのシンポジウム「宇宙の謎に挑む 日本の貢献」を、仙台、広島、福岡で実施。宇宙をキーワードにすることで、これまで「加速器」という言葉になじみの無かったたくさんの方に参加して頂くことができた。来年以降も、シンポジウムは定期的に開催される予定だ。

技術開発の進捗

 要素技術の開発や試験施設の建設も着々と進んだ。年明けから、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の先端加速器試験装置(ATF)では、ナノメートルレベルの電子ビーム開発向けたビームライン「ATF2」の建設が完了し、本格的な運用を開始。10 月末には、ATF で大電力半導体技術を用いる高速キッカーの試験にも成功し、ILC 実現に向けて弾みがついた。また、ILC の心臓部である「超伝導加速空洞」の研究開発で課題となっているのが、超伝導加速空洞の安定性、成功率の向上だ。早野仁司氏(KEK 准教授)、岩下芳久氏(京都大学准教授)および田島裕二郎氏(株式会社東芝)は、空洞内表面状態の精密観測を目的として、光学カメラとミラーを組み合わせた「光学検査システム」を開発。これによりこれまで正確につかむことが出来なかった空洞内表面の微細な欠陥を可視化し、次々とその構造や形状を解明できるようになった。

加速器と測定器の設計

 国際協力で加速器開発を進める国際共同設計チーム(GDE)では、加速器設計の最適化とコスト削減への取り組みが続けられてきた。2004 年に発表された基準設計報告書をより現実味のある計画にまとめ、各国政府への提案へとつなげることが狙いだ。GDE は来年夏頃までに新たなベースラインを発表すべく、提案書をまとめており、今後その評価作業が進められる予定である。 測定器開発の取り組みでは、3月に測定器研究グループから測定器趣意書(LOI)が提出され、国際測定器諮問委員会(IDAG)によって評価が行われた。提出された「国際大型測定器(ILD)」、「シリコン測定器(SiD)」、「4th」、の測定器コンセプトのうち、ILDとSiD が認証を受けた。 

アジア

 今夏、多数のアジアの学生がつくばに集まった。アジア各国の高校生、大学生が一堂に集まって世界のトップクラスの科学者と議論し対話する「2009 アジアサイエンスキャンプ」が8 月2 ~ 8 日に開催されたのである。 小柴昌俊氏、野依良治氏、小林誠氏ら内外のノーベル賞受賞者8 人が講師として参加。天皇皇后両陛下は、同キャンプのポスター発表をご視察され、送別パーティで学生たちとお言葉も交わされた。また、アジアの加速器研究施設のコミュニケーション分野での国際協力活動の強化を目指して「アジア加速器プラザ」ウェブサイト(http://www.aaplaza.org/)の共同運用も開始されるなど、「アジア」をキーワードとする活動が多く実施された年でもあった。

 2009 年、着実に実現へ向けて進捗したILC の研究開発の取り組み。 ILC の今年の漢字を選ぶとしたら、「進」だろう。今年一年のご支援、ありがとうございました。来年もよろしくお願い致します。

1,2. 2 月26 日、東京・グランドプリンスホテル赤坂で先端加速器科学技術推進シンポジウム「日本発宇宙行き~国際リニアコライダー(ILC)実現に向けて」開催。挨拶をする鳩山由紀夫氏(民主:リニアコライダー国際研究所建設推進議員連盟・会長代理)。「国家戦略としてのリニアコライダー国際研究所建設推進」と題して講演を行う、河村建夫氏(自民:同議員連盟・共同幹事長)。

3. 多数の収束磁石が設置されたATF2 ビームライン。これらの磁石を用いて電子ビームを35 ナノメートルまで絞り込む。

4. KEK のATF で開発されたビームを蹴ることで角度を変える装置「キッカー」。中央部に見える銀色の円筒状の装置が撤去された既存のキッカー。その前にある、赤い電磁石間をわたる銀色の細長いパイプ状のものが新たに開発した高速キッカー。

5. 9 月上旬、KEK でアジアの加速器研究施設の広報担当者らが集まる初の会合が開かれた。

6. ILC の測定器のうちの一つとして認証を受けたILD 測定器の概念図。

7. KEK のホームページで連載中の科学マンガ「カソクキッズ」。10 月には、序章から第5話までを加筆修正した単行本Run I(ラン・ワン)が完成。
http://www.kek.jp/kids/comic/index.html

8. 11 月8 日、福岡市の西鉄ホールにおいて開催された先端加速器科学技術推進シンポジウム「宇宙の謎に挑む日本の貢献」。仙台(6 月2 日)、広島(7 月4 日)と、全国各地で開催した。

最近の話題 LHC で最初の陽子陽子衝突事象を確認

 11 月23 日、欧州合同原子核研究機構(CERN:スイス)の大型ハドロンコライダー(LHC)で、周長27km の円形の加速器に再度ビームを周回させ、陽子と陽子の衝突事象を検出することに成功した。  LHC では2008 年9 月10 日に最初のビーム周回に成功したが、その9日後に超伝導磁石が深刻な故障に見舞われた。一部の電気接続部の不良が深刻な損害をもたらしたもので、CERN は、その後1年をかけLHC の修理と整備を行ってきた。  今回のビーム衝突は時計回りと反時計回りにそれぞれ450GeV(4 千5百億電子ボルト)まで加速された陽子を正面衝突させることに成功したもの。CERN では今後、ビーム強度を高めていき、クリスマスまでに1.2TeV(1兆2千億電子ボルト)のビームによる実験の開始を目指す。

関連サイト:

Two circulating beams bring first collisions in the LHC(英語)
http://press.web.cern.ch/press/PressReleases/Releases2009/PR17.09E.html
日本語訳(PDF)
http://atlas.kek.jp/sub/CERN-LHC/PR17.09J.pdf
LHC First Beam(英語)
http://cern.ch/lhc-first-beam/
LHC アトラス実験
http://atlas.kek.jp/
LHC 実験に関するツイッター:www.twitter.com/cern

最近の話題 宙博(そらはく)2009 に出典

熱心に超伝導コースターの説明を聞く若田宇宙飛行士(中央)熱心に超伝導コースターの説明を
聞く若田宇宙飛行士(中央)

 12 月3 日~ 6 日の4日間、東京国際フォーラムにおいて「宙博2009」※が開催された。これは世界天文年2009 日本委員会公認イベントとして、宇宙の謎を解く最先端の研究や環境エネルギーなどを紹介するもの。  KEK では光電子増倍管、超伝導加速空洞や超伝導磁石、小林・益川理論の展示コーナーと小林氏がノーベル財団から本物のメダルとともに寄贈されたレプリカ、宇宙線を目に見えるようにする「スパークチェンバー」のほか、液体窒素で冷やされた超伝導体が磁石のレールに沿って走る「超伝導コースター」、霧箱で放射線を見る実験コーナーなどを出展した。  初日のオープニングセッションで小沢鋭仁環境大臣と坂田東一文部科学省事務次官が挨拶を述べられた他、観山正見国立天文台台長や杉山直名古屋大学教授、若田光一宇宙飛行士や村山斉東京大学数物連携宇宙研究機構長らによる最先端の話題の講演も行われた。  会場には4日間でのべ2 万6 千人が訪れた。親子連れや学校帰りの中学高校生、会社員や年配の方が熱心に展示物を見たり、説明にあたる研究者と熱い議論を交わしたりする様子が見られた。
  ※宙博のウェブサイト(http://sorahaku.jp/

最近の話題「行政刷新会議による事業仕分けの影響についてのご意見募集」へのご協力ありがとうございました

【ILC 通信】号外、KEK ホームページにて、行政刷新会議による事業仕分けの影響についてのご意見募集をお願いしたところ、大変短い受付期間であるにもかかわらず、12 月10 日までの間に、日本国内を含め計26か国から 726 件(メール、郵便、FAXを含む)という、多数のご意見、ご要望、叱咤激励のお言葉をお寄せいただきました。誠にありがとうございました。今後とも ILC ならび、KEKへのご支援のほどをよろしくお願い申し上げます。 ※ご意見募集結果の概要については、以下をご参照ください。 http://www.kek.jp/shiwake/ikenbosyu_kekka.html

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2009年11月の滞在者

KEK には、毎月世界各地から学生や研究者が訪れ、共同研究を行っています。ILC の技術開発のために訪れた滞在者はこちら