ILC通信 Vol.48 pdf

科学者の説明責任
~大型計画のマスタープラン発表~

「KEK に期待することは、サイエンスの成果を出し続け、先端テクノロジーにチャレン ジすることです」と語る相原博昭氏。
(KEK 小林ホール記念シンポジウムにて)

 3 月17日、日本学術会議は提言「学術の大型施設計画・大規模研究計画- 企画・推進策の在り方とマスタープラン策定について-」を発表した。この「マスタープラン」には、KEKB 加速器の高度化や、心のしくみを解明する先端研究拠点の構築など、建設費100 億円以上、運営費数十億円以上の大型研究計画285 件の中から43 件が選定された。その中にILC 計画も含まれている。昨年3 月から、大学や研究機関を対象に調査とヒアリングを重ね、科学的、社会的に重要と認められた計画を選抜したもので、「人文・社会科学」、「生命科学」、「エネルギー・環境・地球科学」、「物質・分析科学」、「物理・工学」、「宇宙空間科学」、「情報インフラストラクチャ」の7分野に分類されている。高エネルギー加速器研究機構(KEK)が関わる研究計画は、「生命科学」分野で1 件、「物質・分析科学」分野で2 件、「物理・工学」分野で6 件が選択された(表1 参照)。


分野 計画名称
生命科学 ・糖鎖科学の統合的展開をめざす先端的・国際究拠点の形成
物質・分析科学 ・高強度パルス中性子・ミュオンを用いた物質生命科学研究
・放射光科学の将来計画
物理・工学 ・B ファクトリー加速器の高度化による新しい物理法則の探求
・J-PARC 加速器の高度化による物質の起源の解明
・国際リニアコライダー(ILC)の国際研究拠点の形成
・大型先端検出器による核子崩壊・ニュートリノ振動実験
・計算基礎科学ネットワーク拠点
・大型低温重力波望遠鏡(LCGT)計画

(表1) 「学術の大型施設計画・大規模研究計画- 企画・推進策の在り方とマスタープラン策定 についてー」で選定された計画。提案する中心的実施期間または実施体制の中で、KEK の名 前が挙がっているもの。詳細はこちらを参照下さい。 http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-t90-2.pdf


 KEK が関わるプロジェクトが43 件中9 件選ばれたことについて、「それだけお金がかかるプロジェクトが多いということでしょう(笑)。とはいえ、それが 大学共同利用機関法人の役割ですから、当然のことといえば当然です」と語るのは、相原博昭東京大学大学院理学系研究科教授。今回の作業で、素粒子・原子核分科会委員長として、科学者コミュニティの意見をまとめる役割を担った。KEK を含む「大学共同利用機関法人」のミッションは、個々の大学のみでは扱うことができない大きなプロジェクトを、その分野の中核機関として推進していくことだ。つまり、予算を個々の大学に分散してつけるのではなく、それを大学共同利用機関法人にまとめて付けることで、予算と人材の効率化を目指しているという訳だ。「われわれのような大学の共同利用者にとっては、KEKには、どんどんがんばっていただきたいところで、多くのプロジェクトが選ばれることは歓迎すべきことです」と相原氏。とはいうものの、今回のマスタープランに予算の裏付けがあるわけではない。

 相原氏は、「ここに載ったからといって予算が付くわけではありません。でも逆に、ここに載っていない計画が予算化されることは非常に難しい、と言うことはできます」と語る。「このようなマスタープランの作成は、欧米では定期的に行われているのですが、日本では、今回が初めての試みとなります」という。「大型施設計画」は、基礎科学分野を中心に科学者コミュニティが立案する、加速器や大型望遠鏡のような「ボトムアップ型計画」と、国際宇宙ステーション計画などの、国策的視点から推進される、より予算規模が大きく、技術開発や応用側面が強調される「トップダウン型計画」がある。どのような経緯で実施されることになったにしろ、大きな予算を要するものであれば、科学的根拠にもとづいた透明性の高い評価、選定プロセスを経て選択されることはもちろんのこと、国民や社会の理解が得られるように「どうしてそのプロジェクトが必要なのか」ということが十分に説明される必要があるだろう。

 KEK の関連するプロジェクトは総じて「ボトムアップ型計画」に属する。これらのプロジェクトについては、科学者コミュニティにおける議論のもと、透明性が高いプロセスを通して実施プログラムが選択されてきた。「今回の作業でわかったことは、加速器科学の分野は“優等生”だということです」と相原氏。実施されるプロジェクトが、その意義、所用経費、スケジュール、期待される成果などについて国際的な専門家チームによってレビューされ、科学者コミュニティの理解を得たうえで実施されるという文化がすでに根付いていたため、ヒアリングの際に非常に役立ったというのである。このように、研究者の間では、プロジェクトの情報展開が十分に行われている「ボトムアップ型計画」だが、国民や社会の理解を得るための十分な説明が行われてきたとは言い難い。今回のマスタープランの作成は、科学者コミュニティが「説明責任」を全うしようとする活動の第一歩であると言えよう。

 先端研究が行われる大型施設は、今や、一国で担うことが困難な規模になっている。そのため、加速器や宇宙科学、天文学などの分野では、国際協力で推進されることが通例となりつつある。特に、南米チリで建設中の大型望遠鏡「ALMA」プロジェクトでは、日米欧による、世界で初めてといえる、対等・平等な国際組織による、共同建設、共同運営が進められている。このような背景をふまえて「マスタープラン」は、大型計画を策定、推進するための省庁を超えた枠組み構築に向けた強い決意で締めくくられている。「ILCが良い例なのですが、これからの大型プロジェクトは、担当する省庁ひとつでは扱いきれなくなるでしょう。枠組み構築は必須の課題です」(相原氏)。

 「大型計画」は、新たな科学と技術の限界への挑戦だ。そこで行われる先端研究は、科学のフロンティアを切り拓き、新たな知を創造する。さらには、技術革新や産業創出にもつながって国力の底上げや、日本の国際競争力強化にも役立つ。しかし、これらの言葉は、納得のできる説明なしには、厳しい経済状況下の国民にとっては単なるお題目にしかならない。なぜ大切なのか?どうして最先端を目指すのか?国民が実感を持って納得できる科学者からの説明が求められている。マスタープランの作成は、そのスタート地点といえよう。


最近の話題サイエンスカフェ「メイキング オブ カソクキッズ」開催

うるの氏直筆のイラスト

 4 月17日、KEK でサイエンスカフェ「メイキング オブ カソクキッズ」が行われた。KEK のホームページで連載中のマンガ「カソクキッズ」の作者である漫画家うるの拓也氏とKEK の研究者が、カソクキッズの誕生秘話、登場人物の名前の由来などについて語った。後半では、参加者を交えての「編集会議」が行われた。  うるの氏は次のように感想を述べている。「カソクキッズのファンの方々と直接お会いしたのは初めてでしたが、どの方も熱い眼差しを注いでくださり、とても楽しい時間を過ごせました。作品を読み込んでいないと言えないような感想もいただき、読んでくれていることが伝わってきて、とても嬉しかったです。カソクキッズのキャラクターたちは、本当に自分の子供のようなもので、彼等を見守ってくれる『友だち』が大勢いることに胸が熱くなりました」。

カソクキッズはウェブサイトで好評連載中です。http://www.kek.jp/kids/comic/
  加筆修正した単行本RUN1、RUN2 は下記よりお申し込みいただけます。
高エネルギー加速器研究機構 広報室 TEL:029-879-6047/FAX:029-879-6049
E-mail:proffice@kek.jp

お知らせ

ノーベル賞の益川氏らによる市民公開講座 5 /28 に開催


 加速器に関する全世界的な国際会議「IPAC10」が京都で開催されることを機に、「市民公開講座」が実施される。一昨年のノーベル物理学賞受賞者の益川敏英氏と、重粒子線がん治療装置の権威、平尾泰男氏が講演する。基礎物理学と、がん治療に役立つ加速器、という2つの視点から、加速器の面白さに触れることができる 貴重な機会だ。

参加費無料。

参加申込受付は5月22日(土)まで。


第1 回世界加速器会議 市民公開講座 
「加速器の果たす役割―基礎物理学からがん治療まで」
日時:2010 年5 月28 日(金)16:00 ~ 18:45(開場15:20)
場所:国立京都国際会館 大会議場
   地下鉄烏丸線「京都駅」から20 分
   「国際会館駅」下車4-2 出口から徒歩5 分
参加費:無料/ 定員1500 名
※空席がある場合は当日でも受け付けますが、原則5 月22 日(はが きの場合は必着)までにお申し込み下さい。
詳細はURL をご覧下さい。http://ipac10.org/Shimin/
< お申し込み・お問い合わせ>
ウェブページ:http://ipac10.org/Shiminform/form.php
E-mail: takemon@kyticr.kuicr.kyoto-u.ac.jp
京都大学化学研究所附属先端ビームナノ科学センター・粒子ビーム科学
TEL( 月、木、金):0774-38-3284
京都大学・化学研究所・広報室
TEL( 火、水):0774-38-3327

お知らせ

先端加速器科学技術推進シンポジウム2010in 東京 開催

 加速器科学の面白さをわかりやすく伝えることを目的として先端加速器科学技術推進協議会がシリーズで実施している「先端加速器科学技術推進シンポジウム」が、6月3日(木)東京家政大学で開催される。今回のテーマは「誕生~宇宙と生命」。宇宙と生命誕生に挑む、最新の科学技術を紹介する。 参加費無料。詳細は、下記をご覧下さい。

先端加速器科学技術推進シンポジウム 「誕生~宇宙と生命~」

主催:東京家政大学、先端加速器科学技術推進協議会
日時:2010 年6 月3 日(木)15:30 ~ 17:30(開場15:00)
場所:東京家政大学 板橋校舎「三木ホール」(板橋区加賀1-18-1)
JR埼京線「十条駅」下車徒歩7分(十条門または正門から入構下さい)
参加費:無料/ 定員250 名(事前参加申し込みが必要です)

プログラム
 1. 開 会
 2. 主催者挨拶
 3. 講演 『誕生 宇宙と生命』
    多摩六都科学館 館長 高柳雄一
   『星と生き物たちの宇宙』
   宇宙航空研究開発機構 准教授 黒谷明美
   『無から生まれた宇宙』
    東京大学 素粒子物理国際研究センター 准教授 山下 了
 4. 総括質疑
 5. 閉 会

詳細については、以下のURL をご覧下さい。
http://aaa-sentan.org/osirase/osirase_100603.pdf

〈お申し込み〉
東京家政大学生涯学習センター事務局
FAX:03-3961-5743/E-mail:syogai@tokyo-kasei.ac.jp

< お問合わせ〉
高エネルギー加速器研究機構内 先端加速器科学技術推進協議会
〒305-0801 茨城県つくば市大穂1-1 
TEL/FAX: 029-879-6241 / E-mail :information@aaa-sentan.org

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掲載日 媒体 内容
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2010年4月の滞在者

KEK には、毎月世界各地から学生や研究者が訪れ、共同研究を行っています。ILC の技術開発のために訪れた滞在者はこちら