ILC通信 Vol.54 pdf

ILC のある街「国際科学研究都市」

国際科学研究都市のイメージ図。©K. Mori & K. Hayakawa

 国際リニアコライダー(ILC)ができるといったい何が起きるのだろう?宇宙の謎の解明が進む。今までの常識がひっくり返るような発見が期待できる。そして数多くのノーベル賞科学者たちがそこから生まれる — 学問の世界で、何かすごいことが起きるのはなんとなくわかるのだが、今ひとつピンと来ない。そんな人のために、岩手県奥州市で行われた講演会で、ILC が建設され運用される街「国際科学研究都市」はいったいどんな街になるのか、野村総合研究所の北村倫夫氏と野村アグリプランニング&アドバイザリー株式会社の石井良一氏が発表した。今回のスタディは講演のためにおこなわれた暫定的なもので「あくまで『たたき台』。イメージをつかんで頂くためのもので、裏付けがあるものではありません」と北村氏。しかし、目に見える具体的な例示は、ILC をぐっと現実的なものにした。

 ILC の建設地は、研究所を中核とする「国際科学研究都市」になる。世界にはこの「国際科学研究都市」と定義できる都市が数多く存在している。これらの都市は、都市形成の初期要因や研究・産業分野、ネットワークや空間の広がりなどから分類することができる。例えば、高エネルギー加速器研究機構(KEK)のある筑波研究学園都市は「国家政策型」。国の特別な政策によって形成された都市だ。神戸市では、先端医療関連産業の集積を図る「神戸医療産業都市構想」が推進されている。これは、医療分野に特化した都市づくり。空間的な広がりから見ると、台湾の新竹のような数百ヘクタール規模のコンパクトな「特定地区型」から、数千〜数万ヘクタールの「広域エリア型」(仏ソフィア・アンティポリス等)、数十万ヘクタールに及ぶ「圏域型」(米サインディエゴ等)に分類できる。また、R&D や生産・市場等のネットワーク際的か、または国内にとどまるものか、という分類指標もある。

 北村氏によると「ILC 国際科学研究都市」のタイプは、初期形成要因からは「誘致型」、中核主体としては「国研+大学型」、研究・産業分野からみると「融合分野型」、空間的な広がりとしては「広域エリア型」、そして連携ネットワークの広がりからは「グローバル連携型」に分類されるという。これは計画初期には、県や地域が中心となって、研究所や大学、企業等を誘致してクラスター形成が行われるということ。「ILCは巨大プロジェクトですから、当然『国策型』という側面もあります。とはいえ、誘致する地域の理解や熱意が重要になるでしょう」と北村氏は言う。中核となる研究所はもちろん国際研究機関であるILC だ。周囲には、関連する国内外の研究所や大学の出先センターが集積すると考えられる。ILC で行われる研究は基礎科学だ。そのため必ずしも研究成果がすぐに産業に結びつくわけではない。しかし「ILC 建設のためには高度土木建築技術はもちろんのこと、表面処理技術や精密加工技術などの先端技術が必要になります。それらを提供する国内外の企業の拠点の集積も考えられます」。さらに、加速器を使った医療技術などの研究が行われる可能性もある。研究者や企業の技術者等が世界中から集まり、その活動は間違いなくグローバルなものになるだろう。「初期段階では、数百ヘクタール規模で活動が進むと思われますが、最終的には筑波研究学園都市レベルの規模になる可能性があります」(北村氏)。

 「ILC 国際科学研究都市」はまた、世界から集まった研究者や技術者、そしてその家族が居住し、生活する場所でもある。それらの人々が快適かつ安全に暮らすことができるような社会インフラや生活サービスの充実は、必須条件となる。国際空港との移動の利便性向上や道路等交通ネットワークの整備はもちろん、最新の情報通信ネットワーク基盤は、生活にも研究にも欠かせないものとなる。外国人仕様の住宅や宿泊施設、多言語対応の医療モールやインターナショナルスクールの整備、行政手続きのワンストップサービスの提供、文化や生活慣習の違いに対応するための支援体制の準備も必要だ。さらにパーソナルなサービスとしては、各国のニュースやテレビ番組等の外国語のメディアコンテンツの提供や多様な宗教に対応する礼拝環境の整備など、配慮すべき点は数知れない。

 最後に、北村氏はILC の経済効果について「都市建設が始まって初期10年間に、直接経済効果と経済波及効果を合わせて約5 兆2000 億円」との見方を示した。ただし、この数値は「あくまでもイメージ」。正確な数字を算出するにはより精緻な調査が必要だと釘を刺した。

 北村氏は「国際科学研究都市の形成には、ビジョンと戦略、そして実行に移す計画が必要」と言う。大きな予算を必要とするILC のようなプロジェクトの実現には、言うまでもなく国民の理解が必要だ。「ILC の国内外への広報活動を進めるためにも、国際科学研究都市を形成するビジョンと計画の早急な策定が求められると思います」。また、石井氏は「しっかりとした戦略をもって都市開発をすれば、ILC のある都市は、住環境と先端科学の融合した『ライフスタイルの理想像』を実現できるかもしれません」と語った。


最近の話題
先端加速器科学技術推進シンポジウム2010 in 京都

 10 月30 日、京都リサーチパークにて第2 回先端加速器科学技術推進シンポジウムin京都『宇宙の謎に挑む 日本の貢献「 はやぶさ」から「国際リニアコライダー」へ』 が開催された。今回のシンポジウムは、関西圏では初めての開催。会場は約200名の参加者でほぼ満席となった。開会に先立ち、時任宣博京都大学化学研究所長が挨拶され「今日は夢が広がる話を聞いて良い気分になれれば」と述べた。

 シンポジウムは、東京大学素粒子物理国際研究センターの山下了准教授による基調講演『宇宙の謎を解き明かす 最先端科学』で始まった。山下氏は、「宇宙に行く」「宇宙を観る」「宇宙の始まりを創る」をキーワードに、世界で行われている宇宙の謎に迫る最先端の研究を紹介。その流れの中で日本がどのような活躍をしているのか概説した。

 引続き、KEKの鈴木厚人機構長が『ビッグバンを再現する究極の加速器 国際リニアコライダー計画』の講演で、宇宙の誕生の謎やその解明に向けた加速器をつかった研究について解説した。これらの研究開発活動は、グローバル化、大規模化の流れの中、大きな予算を要する巨大プロジェクトとなっている。講演の中で鈴木氏は「研究の推進には国民の理解を得ることが必須」とし、KEK が講師として職員を全国に派遣するプロジェクト「KEKキャラバン※」についても紹介した。

※詳しくはこちらを参照ください。 http://caravan.kek.jp/

 最後の講演は、宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 教授 川口淳一郎氏による『世界初 小惑星探査機「はやぶさ」60 億km 宇宙往還の旅』川口氏は90 分に及ぶ講演で「はやぶさ」が宇宙へ旅立ち、幾多のトラブルを乗り越え、満身創痍になってカプセルを地球に送り届けた荘大なドラマを、余すこと無く伝えた。「はやぶさ」の後継プロジェクト「はやぶさ2」は、事業仕分けにより一度は予算がほぼゼロまで削減されたが、今回のミッション成功で予算が復活。このことにつき川口氏は「もしも失敗していたら、どのように捉えられていたか考えると恐ろしい」と述べ、科学技術への挑戦が成果のみで判断される傾向に対する懸念を表明した。また、はやぶさの今回の偉業についてNASAが決して「一番」という表現をしなかったというエピソードを紹介。科学者が「世界一」を目指すことの大切さを強調した。

 最後に、高柳雄一 多摩六都科学館館長をモデレータとして、3 名の講演者と京都大学教授 野田章氏によるパネルディスカッションを実施。会場からは、回答しきれないほど数多くの講演者に対する質問が集まった。野田氏は「今日の講演で感じたことは、本物の迫力に触れることの大切さ」と述べ、シンポジウムを締めくくった。


お知らせ
先端加速器科学技術推進シンポジウム2010 in 名古屋
『宇宙の謎に挑む 日本の貢献』
「B ファクトリー」から「リニアコライダー」へ

 主催: 名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構、先端加速器科学技術推進協議会
 後援:高エネルギー加速器研究機構
 日時:2010 年11 月27 日(土)13:30 ~17:00(開場13:00)
 場所:栄ガスビル5 階 ガスホール(名古屋市中区栄3-15-33)
 参加費:無料/定員250 名(事前参加申込が必要です)

講演

『B ファクトリーからスーパーB ファクトリーへ』 
名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構 現象解析研究センター長 飯嶋 徹

『ビッグバンを再現する究極の加速器 国際リニアコライダー計画』
大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 機構長 鈴木厚人

『現代科学と社会』 名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構長 益川敏英


パネルディスカッション:『日本の英知が宇宙の謎を解く』

パネリスト :上記講演者3 名及び
名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構 基礎理論研究センター長 棚橋誠治

モデレーター:多摩六都科学館 館長 高柳雄一

詳細は以下のURL をご覧下さい。
http://aaa-sentan.org/event/simpo_1002.pdf

〈お申込・お問合わせ〉先端加速器科学技術推進協議会事務局
〒305-0801 茨城県つくば市大穂1-1 
高エネルギー加速器研究機構内
TEL/FAX: 029-879-6241  E-mail : sympo@aaa-sentan.org

2010年10月の滞在者

KEK には、毎月世界各地から学生や研究者が訪れ、共同研究を行っています。ILC の技術開発のために訪れた滞在者はこちら