ILC通信 Vol.61 pdf

カマボコ型?トンネル

新しく提案されたカマボコ型トンネル。トンネルの大きさは、幅およそ11 メートル、高さ5.5 メートル。厚さ3.5 メートルの壁で2 つの部屋に分けられている。カマ ボコ型を説明するために、会議に参加した外国人研究者には、本物のカマボコが配られた。画像提供:KEK CFS グループ

 テンプラ、スキヤキ、スシ・・英語として通用する日本語には、料理の名前が多い。世界の国際リニアコライダー(ILC)の研究者の日本語リストには、これから「カマボコ」が加わることになる。

 10 月12 日からの4 日間、高エネルギー加速器研究機構(KEK:茨城県つくば市)にILC 研究者が集まり、一般施設や土木工事、建設地関連の課題を議論した。現在ILC の実現に向け、世界の研究者が協力してR&D を進めているが、その建設地は未定だ。そのため、欧・米・アジアではそれぞれ候補地を定め、それぞれの立地条件や地質などに適したトンネル設計を立案している。中でも、国土の70 パーセント以上が山地である日本の立地条件は、多地域とは異なる。その日本の候補地に建設するトンネルの形状として提案されているのが「カマボコ型」トンネルだ。英語ではこの形を表す適切な単語が見当たらないため、会議でも「カマボコ」という言葉が使われた。

 カマボコ型トンネルは、NATM(ナトム:新オーストリアトンネル工法)と呼ばれるトンネル掘削方法で検討した新しい形のILC トンネルだ。NATMの工事では、まずダイナマイトによる発破や機械等によってトンネルを掘り、コンクリートを吹き付ける。そして、コンクリートの上から地山に向け、ロックボルトと呼ばれる特殊なボルトを奥深く打ち込み、岩盤とコンクリートとを固定する。トンネル壁面と地山を一体化してトンネルの強度を保つことが出来る合理的な工法で、山岳部のトンネル工事に使われることが多い。日本のILC のトンネルにはぴったりの工法に思えるのだが「これまでは、NATM 工法でのトンネル掘削はオプションから外されていました」と、KEK で土木関連研究を進める宮原正信氏は語る。「問題になっていたのは、NATM 工法の工期の長さです。TBM に比較すると数倍かかってしまうため、これまではTBM による掘削が検討されて来ました。しかし、工事のスケジュールを最適化するなどの工夫をすれば、NATM 工法で工事を行っても、TBM の工期より短くすることが可能であることがわかったのです」(宮原氏)。

 TBM とは、トンネルボーリングマシン(TBM)と呼ばれる円柱型の巨大掘削機械を使う工法である。グリッパと呼ばれる装置で抗壁を押さえ、先端に取り付けたカッターがガリガリと掘り進むので、掘削スピードが速く、工期を短くすることができる。TBM 工法の欠点は初期コストの高さだ。TBM マシンはとても高価であり、一台のTBM が掘削する距離が短いと非常に不経済になってしまう。しかしILC のトンネルは数十キロメートルに及ぶため、高価な機械を導入しても割安、と判断されていたのだ。実際、近年の大型トンネル工事にはTBM が多く使われている。また、TBM 工法を使う場合、トンネルの形状はTBMマシンの形と同じ円形。トンネルの直径はTBM マシンの大きさに依存する。つまり、大きなトンネルが必要な場合は、より大きな、つまりより高価な掘削機が必要となるわけだ。

 一昨年、ILC 国際共同設計チーム(GDE)は、SB2009 と呼ばれる新しい加速器設計のベースラインを発表した。これは、2004 年に発表した基準設計を詳細に見直すとともに、コストが削減できる項目を徹底的に洗い出して、最適化した新しいベースライン設計だ。ここで提案されたのが「シングルトンネル設計」である。基準設計では、加速器を設置する主トンネルに沿って、もう一本のサービストンネルが配置されていた。様々な検討の結果、これを1 本のトンネルにまとめることが可能との結果が出たのである。ところが、サービストンネルには、設置することになっていた各種機器がある。それらをどこに配置すべきかを検討し直すと同時に、詳細なコスト試算が行われて来た。日本では、研究者と産業界が協力して、8 パターンの設計について詳細検討を行った。その結果、最適とされたのがカマボコ型トンネル。カマボコ型のトンネルの中央にはコンクリートの壁があり、2 つの部屋に仕切られている。

 「今回は放射線の専門家にも検討に参加してもらい、壁厚を3.5 メートルにすると、基準設計の2 トンネルとほぼ同等の機能を持つシングルトンネル設計になることがわかりました」と、GDE プロジェクトマネージャの山本明氏。この設計は、今回の会議で日本における設計として国際的に認められた。山本氏は「さらに、試算によれば、25%ほどのコスト削減にもつながります。非常に満足しています」と語る。欧・米では、同レベルのコスト試算はまだ行われていないため、今回の日本チームの結果を踏まえて検討が始められる予定だ。


ILC NewsLine ダイジェスト

ILC 研究者グループが毎週発行しているニュースレター「ILCNewsLine」に掲載された記事から、ILC 通信編集部セレクトのおすすめ記事を要約版でお届けします。元記事は、ウェブサイトでご覧頂 けます。(英語:http://newsline.linearcollider.org/
日本語訳:http://ilchighlights.typepad.com/japan/

9月22 日号より 日本のILC測定器R&D

キックオフミーティングの参加者ら。

 9 月12 ~ 14 日、ILC測定器システムの国際的なR&D プログラムに関するキックオフ・ミーティングが開催された。約60 名の国内外の研究者が参加した。

 日本のILC 測定器R&D の大部分は、日本学術振興会(JSPS)の科学研究費助成金から拠出されて来たが、今年、新たな研究予算が承認された。特別推進研究「ILC のための最先端測定器の国際的新展開」として、5 年間の予算が交付されたのだ。これは、2012 年末に予定されている詳細ベースライン設計(DBD)の提出以降のR&D もカバーするものだ。

 この会議には海外の研究者も参加。ILC 運営委員会の議長であるJonathan Bagger 氏、GDE のディレクターのBarry Barish 氏も発表を行った。最終日の午後、参加者の一部は日本国内の2 つの候補地のうちの1 カ所を見学。今回の会議の議長を務めた山本均氏(ILC 実験管理組織のアジア・コンタクトパーソン)は「今回の会議で、世界的な研究における日本の研究の立ち位置を確認することができました。今後5 年間の活動に向け、良いスタートを切ることができました」と述べた。



9 月29 日号より GDEの任務遂行の最終部分

国際ワークショップ中のGDE アジア地域ディレクター
横谷馨氏。(写真左)

 リニアコライダー研究者が、第2 回次世代リニアコライダーの国際ワークショップに参加するため、スペインのグラナダに集まった。会議は350 人以上の出席者をむかえ、素粒子物理学の次世代、特に大型ハドロンコラ イダー(LHC)の結果が次世代のコライダーの設計をどのように導くかに関して活発に議論が進んだ。

 GDE メンバーの多くが、この会議では、技術設計報告書(TDR)に関する最終的な詳細計画に臨んでいる。2012 年末にTDR を完成させることは、GDE の任務の終了を意味し、加速器の建設準備が整ったことを明示するものだ。

 米ユージンで3 月に開かれた前回のリニアコライダー・ワークショップで、幅広いプロジェクト決定に関する合意に達した。ここグラナダで、プログラムのより細かい部分を練り上げた。したがって、ILC グループは、厳しいテストと徹底的な分析で、加速器システムをより信頼できるものにすべく、一生懸命に働いていた。

 しかし、GDE の選択は、加速器に関連した技術決定に限られたものではない。産業化とコスト算出に関する決定も下さねばならない。研究者として、これらの種類の仕事は刺激的なものではないが、ILC の実現には不可欠なものである

 工業化とコスト算出は、おそらくこのような巨大プロジェクトで最も挑戦的な側面である。産業界から学んでいることが、コスト算出に反映されていく。空洞の改良とクライオモジュールの製造に複数の会社に参加してもらうよう、最善を尽くしてきた。この仕事が各社に割り振られるためには、研究所の責任で、会社の製品が最低限の品質基準を満たし、ILC 仕様を満たすことを保証する必要がある。TDR の刊行後にも、この品質保証の仕事を継続する。

 もちろん、この会議で多くの人々が語っているように、次世代の加速器科学は今後のLHC の結果次第だ。同様に、ILC の研究者たちは、次の大きなLHC の発見を心待ちにしているが、それまで、GDE 任務の最終段階を完了するために一生懸命に働くつもりだ


素粒子物理ワールドニュース

KEK と共同でILC の研究開発にあたっている世界の研究所から発信された、素粒子物理学関連の話題をピックアップします。

2011 年9 月28 日
CERN プレスリリースより
CERN 超低速反陽子実験キックオフ

ELENAの図面。画像:CERN

 9 月28 日、欧州合同原子核研究機関(CERN)で、日本を含む8 カ国からの研究者が集まり、超低速反陽子リング実験(ELENA)のキックオフ会議が開催された。この実験は、新たに新設される小型の減速器で現在の1/50 までエネルギーを低くした反陽子を生成する。反陽子のエネルギーを低くすることにより、これまでの10 〜 100 倍の効率で反陽子を捕捉することが可能となり、反物質研究に大きく貢献することが期待される。この新実験は、今年6 月にCERN 理事会が承認したもので、2013 年に建設を開始し、2016 年に最初の反陽子が生成される予定。


2011 年10 月3 日
Fermilab Today より
テバトロン運用終了式典を開催

テバトロンの最後の衝突ビームを停止する、左からLeon
Lederman 氏(1988 年ノーベル物理学賞受賞者、Fermilab
前所長)、Robert Mau 氏(Fermilab 加速器運転前リーダー)
、Helen Edwards 氏(前加速器部長)。
写真:Marty Murphy氏(AD)

 9 月30 日、26 年間に渡って様々な物理発見を成し遂げて来た米フェルミ国立加速器研究所(Fermilab)の大型加速器「テバトロン」が運用を終了し、盛大に式典が催された。テバトロンの実験では、トップクォークの発見やW ボソン質量の精密測定、Bs 中間子振動など大きな成果が得られた。運用終了の時点ではCDF とDZero の2 つの測定器が収集したデータ量や、加速器の達成した性能は、加速器が運用を開始した80 年代には「不可能」であると考えられていたレベルまで到達した。

テバトロン加速器。画像:Fermilab

テバトロンから派生した技術は、MRI 装置をはじめとする様々な製品に応用されている。また、テバトロンで経験を積んだ研究者たちが、現在稼働中のLHC やその他の世界の素粒子物理実験で活躍している。

 今後Fermilab は、直線型超伝導陽子加速器「プロジェクトX」で、次世代の素粒子研究の牽引を狙う。


2011 年10 月12 日
KEK プレスリリースより
大学共同利用機関の役割と更なる機能強化に向けて(中間まとめ)

 大学共同利用機関法人・機構長会議(4 機構長により構成)は、学術研究をめぐる内外の状況、大学改革の進展など大学・大学共同利用機関をとりまく状況が変化する中で、大学共同利用機関が、今後とも大学との連携に立脚した学術研究の中核機関としての使命・役割を果たしていくための取組・方策を検討しており、これまでの検討の成果を「中間まとめ」として取りまとめて公表した。

 今後の発展に向けて強化する役割・機能としては( ア) 研究者の多様性・独創性に立脚し、我が国の知を結集して最先端の研究を自ら実施し、学術研究の飛躍的な発展につなげる基盤機関としての役割( イ)大学を中心とする学術研究の推進に必要不可欠なインフラストラクチャとして、大学との組織的連携( ウ) 世界トップレベルの研究者、優れた技術力や施設設備、共同研究の場など、若手研究者を引付ける研究環境を最大限活用した大学院教育をはじめとする次代を担う若手研究者の育成への貢献( エ) 国民・社会が重要なステークホールダーであるとの認識に立ち、幅広い理解と支持を得るための国民・社会とのコミュニケーション、の4点を挙げている。

詳しい内容は、KEK のウェブサイト http://www.kek.jp/ja/NewsRoom/Release/2011/10/12/20110930_matome.pdf をご覧下さい。


先端加速器科学技術推進シンポジウム in 北海道(仮称)

 先端加速器科学技術推進協議会が主催する、次回の先端加速器科学技術推進シンポジウムは、2012 年1 月に北海道で開催予定です。お申込方法やプログラムの詳細等につきましては、先端加速器科学技術推進協議会ウェブページ http://aaa-sentan.org/ で順次公開される予定です。


大学共同利用機関シンポジウム2011「万物は流転する」
ー宇宙・生命・情報・文化の過去・現在・未来―

 KEK を含む、全国の大学共同利用機関が日々行っている最先端の研究をより多くの皆様に知って頂き、ご理解とご支援をいただくための取り組みの一環として、「大学共同利用機関シンポジウム2011」を開催致します。KEK からは、鈴木機構長による講演「加速器で見る宇宙・物質の変遷」とKEK の行っている最先端科学の展示を予定しています。


日時:2011 年11 月26 日(土)12:00 ~ 17:00
場所:ベルサール秋葉原 2F イベントホール
   JR 秋葉原駅電気口より徒歩4 分
入場料:無料/定員 300 名(申込不要)
講演: 『宇宙の創生とマルチバース』
     自然科学研究機構 機構長 佐藤勝彦
    『加速器で見る宇宙・物質の変遷』
     KEK 機構長 鈴木厚人
    『東日本大震災と文化財』
     国立歴史民俗博物館 准教授 小池淳一
    『防災より減災へ:情報・システムの立場から』
     情報・システム研究機構 機構長 北川源四郎
詳細はURL をご覧下さい。http://int-univ-symp2011.kek.jp/
〈お問合わせ〉主催/大学共同利用機関協議会
大学共同利用機関協議会 広報ワーキンググループ事務局
〒305-0801 茨城県つくば市大穂1-1
TEL.: 029-864-5114 / E-mail shomu@mail.kek.jp



加速器図鑑
クライストロン

KEKB 等への入射器として使われている線形加速器に使用
されているクライストロン。高さ約 2 m の縦型である。電
子ビームは下から上へと打ち上げられる。上部に出力空洞
がありそこで作られた電波が導波管(銅で出来た四角いパ
イプ)を通って線形加速器の加速管へと運ばれる。

 クライストロンは大出力の電波発生装置である。クライストロンで発生した電波を加速管に送り込む。加速管は金属の筒で、内面の形状を工夫する事により、クライストロンから送り込まれて来た電波を「電子を押すような」形に整える。電子は加速管の中でこの電波に「押されて」加速されていく。クライストロンと加速管は、このように1つのセットとなって始めて活躍する事が出来る。ところでクライストロンという名前で「おや?」と思った読者もいるのではないだろうか。読者の中にはサイクロトロンやシンクロトロンという加速器をご存知の方も多いと思う。サイクロトロンやシンクロトロンは加速器の形式を表す一般名詞だが、9 月の末に惜しまれながら運転を終了した米国の大型加速器はテバトロンという名前であった。そうです加速器にはトロンとつくものが多い。それではなぜ電波発生装置をクライストロンと呼ぶのか。それはクライストロンもまた加速器だからである。クライストロンは大ビーム電流、低エネルギーの小型電子加速器*1 である。クライストロンの最終部には出力空洞と呼ばれる金属で出来た茶筒状のものが付いている。ここを大電流の電子ビームが通った時に電波が発生する。この電波を加速管に送るわけである。

 クライストロンと加速管のセットは、つまり大電流、低エネルギーの電子ビームで大出力の電波を作り(ここまでがクライストロン)、その電波を加速管に入れ、加速管の中で小電流の電子ビームを加速して、高エネルギーのビームを得る、という働きをしている。電気の回路に詳しい人はトランスに似ているなと思ったかもしれない。トランスでは一次側回路に低い電圧で大きな電流を流し、二次側回路に高い電圧で小さな電流を取り出すという事が行なわれる。トランスは英語のトランスフォーマーの略で変換器である。クライストロンと加速管のセットもこの意味で変換器と言える*2。

*1)典型的なサイズは 2 m くらいである。
*2)トランスでは電流は電線の中を流れるが、クライストロンと加速管では電流はビームとなって真空中を走る。


編集部より

 光速を超えるニュートリノの兆候観測や「宇宙の加速膨張」を研究した科学者がノーベル物理学賞を受賞するなど、最近素粒子物理学や宇宙物理学が マスコミを賑わせています。ILC 通信公式Facebook では、これらのホットな話題について、現役物理学者による論戦(?)が繰り広げられています。Facebook アカウントをお持ちでない方もアクセスできますので、ぜひ一度のぞいてみて下さい。
また、Twitter でもつぶやいています。

 ILC 通信各号の記事はウェブページでもご覧頂けます。 紙版の送付をご希望されない場合や部数の変更等がござい ましたら、編集部までご連絡下さい。今後ともご愛読頂け ますようよろしくお願い申し上げます。